皆さんは、W杯サッカーの日本対デンマーク戦を見たでしょうか?
普段は、熟睡している人も、この時ばかりは眠い目をこすりながら、テレビに釘付けだったことでしょう。昨日の【MOTO】先生たちが学会で訪れているトルコでも、日本戦が注目されているようでしたが、トルコは、親日で有名な国です。それは、和歌山で起きたある出来事と、教育のなせる技なのですが、その話については、またいずれ...(笑)。
日本中の人々が注目する世紀の一戦、その視聴率は、半端なものではありませんでした!
試合開始時間が日本時間の深夜3時30分だったにもかかわらず、この試合をテレビ中継した日本テレビの3時から5時までの平均視聴率は、ビデオリサーチ社の調べによれば、関東地区で30.5%!しかも瞬間最高視聴率は、同地区で41.3%にも上ったとテレビや新聞で報じられました。
さらに、その時間帯の各テレビ局の視聴率を100%に換算した視聴占有率は、85.4%という驚異的な数字が示されました。つまり、その時間帯にテレビをみていた8割以上の人が日本対デンマーク戦を視聴していたことになります。
W杯大会前の強化試合で得点すら挙げられず、4連敗した時は、正直、多くの人々が日本代表チームがここまで健闘するとは、思っていなかったことでしょう。今日のスポーツ新聞のみならず、一般紙の社説にも日本代表チームの健闘を称えるとともに、本戦が始まる前のチーム状態を勘案し、「さすがにここまでやるとは...」というトーンで記事を掲載していました。
「岡ちゃん、やめろ!」「なぜ、俊輔を使わない?」、サッカー好きの学生が本戦前にああだこうだと話をしていました。また「本田のワントップならば、試合を見ない!」と吐き捨てるようにコメントしていた元日本代表選手の重鎮も本田選手の活躍には、さすがに感服していることでしょう。
ある報道番組では、日本代表チームの戦いぶりに一喜一憂する姿と、政権交代を果たした民主党政権に大きな期待を寄せ、70%を超える内閣支持率から20%にまで落ち込んだ国民の一喜一憂する姿を重ね合わせて、日本国民の心理的特徴を解説していました。
先週のブログで、"アイデンティティ(identity)"についてふれましたが、国民が一喜一憂する心理状態は、"社会的アイデンティティ理論(social identity theory)"で解釈することができます。
心理学の分野では、"社会的アイデンティティ理論(social identity theory)"という集団と個人との関係を紐解く理論があります(詳しくは、ippo先生に聞いてください!)。これは、自分が所属する集団(内集団:ingroup)とそれ以外の集団(外集団:outgroup)とを峻別し、内集団を肯定的に評価するとともに、そこに所属する自己評価も高めようとする傾向を示すものです。
Cialdiniら(1976)がこのような人間の心理状態を、"BIRGing"と"CORFing"という2つの特性で示しました。
BIRGing(basking in reflected glory)とは、高い評価を受けている個人と集団と自己との結びつきを強調することによって、自己評価や他者からの評価を高めようとする方策のことを指します。
CORFing(cutting off reflected failure)とは、低い評価を受けている個人や集団との結びつきがないことを強調することによって、自己評価の保護や他者からの低い評価を避けようとする方策のことを指します。
図に示したものは、この理論をスポーツファンの心理に適応したWannとBranscombe(1990)の先駆的研究の結果です。縦軸は、BIRGing(試合に勝ったときに、チームとの結びつきを強めようとする態度)の得点と、CORFing(試合に負けたときに、チームとの結びつきを弱めようとする態度)の得点が示され、横軸には、チームに対する帰属意識や忠誠心を示す"アイデンティフィケーション(identification)"のレベルが示されています。
結果が示すとおり、アイデンティフィケーションのレベルが高いほど、勝ったときにチームとの結びつきを強めようとする態度が高まっていることがわかります。またアイデンティフィケーションのレベルが高ければ、負けたとしてもチームとの結びつきを弱めようとはしないということがわかります。
阪神タイガースのファンは、肝っ玉が据わっているというか(笑)、どのチームのファンよりも勝ち負けに一喜一憂するものの、CORFingの得点がほとんど高くなりません。実際、野村さんがタイガースの監督をしていた時、Aクラスにすら上がれませんでしたが、その時ですら、若干、観客動員数が落ちましたが、タイガースファンは、ほとんど甲子園球場から離れていきませんでした。
"負けることもセットでタイガースファン"ということを、以前、私の知人が話していましたが、全てのファンがそうであるとはいいませんが、タイガースファンの多くが、高いレベルでアイデンティフィケーションを抱く、つまりファンがチームと結びついているのでしょう。
そのように考えれば、個人の組織に対するアイデンティフィケーションをいかに高めるかが組織マネジメントにおいて、重要となります。岡田ジャパンの選手や岡田監督自身も試合に出場する選手だけではなく、控え選手を含めた全員が"チーム一丸"となって...という言葉をインタビューなどで盛んに繰り返しています。
選手の起用をはじめ、技術や戦術が試合の勝敗の鍵を握るスポーツにおいて、「チームワークで勝つ」というのは、ナンセンスなように思えるかもしれませんが、フランスチームの予選リーグ敗退という状況を考えれば、チームワークが勝敗と無関係とはいえないことでしょう。
フォーメーションやポジション、選手起用をめぐって、岡田ジャパンは、W杯前に揺れ動きましたが、"雨降って地固まる"という言葉があるように、試合に出場する選手も控え選手もチームという組織の中での自らの立ち位置や役割、また責任を果たし、組織が個人の目標ではなく、組織の目標に向かって有機的に機能しているのではないでしょうか...。
それを象徴する行動として、本田選手がカメルーン戦で得点を決めた際に、真っ先に控え選手がいるベンチに向かい、喜びを分かち合ったり、また控えに甘んじているファンタジスタ中村俊輔選手も給水や出場選手への声かけなどに献身的に取り組んだりしている様子が、テレビで映し出されています。
社会的アイデンティティ理論の話題から、少し横道にそれましたが、個人の組織に対するアイデンティフィケーションを高めることは容易なことではありません。現在の企業経営がそうであるように、不況下においては、組織の成長を"温かく見守る"というような発想はありません。長期的な戦略やビジョンよりも、むしろ、目の前の成果や収益に強い関心が払われます。
スポーツ界も例外ではありません。シーズン途中で監督が更迭されることは、珍しいことではありません。"期間限定"の岡田ジャパンも、日本サッカーが新しい扉を開くためのきっかけづくりではなく、W杯で結果を残すということの方が圧倒的に求められています。
日韓共同開催の2002年W杯を記念して、神戸で開催されたシンポジウムでパネリストとして岡田監督と同席させてもらったことがあるのですが、岡田監督は、誠実だけでなく、ユーモアもあり、そして大変繊細な方であったという印象が強く残っています。W杯本戦の前には、厳しい立場にも立たされましたが、韓国が決勝トーナメントが始まって早々にウルグアイに敗れ、南アフリカを去った今(あれ?これって、日曜日の深夜の話??)、アジア代表の岡田ジャパンが世界の強豪国を相手に決勝トーナメントで旋風を巻き起こしてくれることを願ってやみません。
がんばれニッポン!